残り香残り香一日の間に頭の中に浮かぶ言葉は 400字詰め原稿用紙なら何枚になるか分からないのに 日記に書き留められる言葉はほんのわずか 一日の間に目に映る物を全部録画しようとしたら 120分ビデオテープが何本も必要になるんだろうけど ほんの一コマでさえ思い出せない日々がある けれど ぼく達がカレンダーをめくり忘れていても 時計が壊れていても 風はぼく達の頬をなで 木々は雨に喜び 月は満ち欠けしながら夜闇を闊歩する 留められず僕達を置き去りにしていく日々だけど 残り香のようにぼく達の中に留まる物もある 猫の毛のやわらかさ 重ねられた唇のしめりけ 梅雨の合間の青空のまぶしさ そんな日々の思い出は いつどこで出会ったという日時が記憶から消えても いつまでもその芳香を保つ 2004/6/9著 |